物体の向きと身体の向きそれぞれが関係する

 前回、オブリーク効果(Oblique Effect)斜めの検出が難しい理由について生活環境に多い垂直・水平の環境が関係していて、その環境下での身体の経験が影響していると話しました。

今回は、物体の向きと身体の向きが斜めの検出に影響していることを示した研究を紹介します。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4909141/

 本研究では、被験者にさまざまな角度で向いた線を提示し、「どの方向か?」を判断してもらうという基本的な課題を使いながら、画面の回転身体や頭の傾きといった条件で実施しています。

これにより、向きを判断する際に使われる

・「画面の回転(環境の垂直・水平)」

・「身体や頭の傾き(自分を基準にした上下左右)」を切り分けて調べています。

特に興味深いのは、身体の向きの設定に被験者を仰臥位(あお向け)にした課題を導入した点です。私たちは普段、無意識に重力方向を利用して“垂直・水平”を理解しています。ところが、仰向けになると重力と身体の上下が一致しなくなり、重力の影響が弱まります。

よって、この姿勢での判断で、結果がどう変わるかを調べることが、重力・身体・視覚の関係性をより明確にすることになります(図1参照)。

The oblique effect is both allocentric and egocentric 2015を参考に作成 ✳︎回転条件の刺激は本文のものではないです

結果は非常に示唆的でした。

つまり、斜めの知覚は「視覚野の特性」だけでなく、「身体の向き」や「外界の垂直・水平」など、複数の参照フレームが統合された結果として生まれているのです。

まず、画面の水平・垂直といった外界基準(allocentric)の影響が強く、オブリーク効果は外界基準で生じる側面が大きいことが示されました。

しかし同時に、頭の傾きや身体の向きによる自己基準(egocentric)の影響も確実に存在していました。

特に身体の上下が重力方向と一致しなくなる仰臥位でもオブリーク効果が見られた点は興味深く、斜めの検出には、自己基準(egocentric)の情報も少なからず関与していることがわかります。

つまり、斜めの知覚は「視覚野の特性」だけでなく、「身体の向き」や「外界の垂直・水平」など、複数の参照フレームが統合された結果として生まれているのです。

 前回から斜めの知覚について話してきましたが、この研究から得たことは、私たちが“斜めの向き”を判断するとき、その基準は固定しているわけではなく、身体と環境の関係性の中で動的に変化しているであり、読み書きの苦手な子ども達に対して、視覚的なアプローチも必要ではあるが、視点を変え身体の向きの認識などの課題も必要に応じて行うことが望ましいと感じた次第です。

個人的には、仰臥位の設定でできる斜めの知覚課題を考えようと思っています!