乳児は言葉を話し始める以前から、口唇や顎をさまざまに動かしている。このような自発的な運動経験は、その後の構音能力の獲得にどのような役割を果たすのだろうか。

GreenとWilson(2006)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16381029/は、生後1・5・7・9・12か月の定型発達乳児29名を対象に、発声を伴わない口腔顔面の自発運動を三次元動作解析によって測定した(図1参照)。

その結果、月齢が進むにつれて運動の出現回数や速度が増加し、運動の持続時間が短縮するとともに、口唇や顎などの運動協調性が変化することが示された。また、自発運動には大きな多様性が認められ、一定の運動パターンが繰り返されるという明確な証拠は得られなかった。

ここで注意したいのは、この研究が発話運動との比較を行っていないことである。したがって、口腔運動の多様性が構音能力の向上に直接関与するとは結論づけられない。

しかし、発声を伴わない口腔運動が、後の構音運動に利用される感覚運動的な基盤を形成する可能性は考えられる。

ベルンシュタインの運動学習理論では、重要なのは運動の自由度を単純に増加させることではなく、目的に応じて身体の自由度を適切に組織化することである。

構音もまた、単に舌や口唇、顎を動かす行為ではない。目標とする音を産生するために、呼吸、発声、構音器官の運動を協調させる目的的な運動である。

例えば、口唇を閉じることができても、それだけで「パ」という音を正確に産生できるわけではない。構音には、口唇閉鎖から開放への時間的調整や呼気との協調、音響的な結果に応じた運動学習が必要となる。

つまり、非発話の口腔運動は構音に必要な感覚運動的資源となる可能性があるが、その能力を構音という目的的な運動に適応させるには、発話に固有の学習が必要である。

さらに、非発話の口腔運動を反復練習することが構音能力の改善につながるという十分な科学的根拠も、現在のところ確立されていない。

したがって、療育において重要なのは、単に口腔運動の種類や可動域を増やすことではなく、子どもがどのような目的をもち、感覚情報を利用しながら運動を調整しているかという視点である。

自発的な運動の多様性が、どのように目的に応じた協調運動へと組織化されるのか。 この問題を考えることが、運動発達と構音発達の関係を理解するうえで重要ではないだろうか。

私は、この過程において、対象物を用いた口腔運動の適応的な経験が重要ではないかと考えている。

例えば、フエラムネを使って音を鳴らす場合、子どもは口唇の形状や呼気の強さを調整する必要がある。また、ストローを使用する場合には、その太さや飲み物の性質に合わせて、口唇の閉鎖や吸引する力を調整しなければならない。

つまり対象物に合わせて口腔をコントロールするこれは、単に口唇を動かす運動ではなく、対象物の性質や行為の結果に合わせて、自らの運動を変化させる活動である

ベルンシュタインの運動学習理論に照らせば、重要なのは運動の自由度を増やすことそのものではなく、環境から得られる感覚情報を利用し、目的を達成するために運動を適切に組織化することである。

食物もまた、口腔運動を通して働きかけ、その性質に応じて運動を調整する必要がある対象物です。

しかも、笛ラムネやストローと異なり、食物は咀嚼によって形状や硬さが変化します。つまり、子どもは変化し続ける対象に対して、自分の運動を適応させなければなりません。

少し発展した私見を述べますが手づかみ食べと感覚運動の発達について

私は、乳児期の手づかみ食べも、環境への運動適応を経験する重要な活動ではないかと考えている。

子どもは食物を目で確認し、大きさや形状に合わせて手指を開き、適切な力で把持する。そして、食物を口まで運び、その性質に応じて口唇、舌、顎の運動を調整する。

この過程では、視覚、手指の触覚や固有感覚、口腔内の感覚情報が連続して利用される。さらに食物は、咀嚼によってその形状や硬さを変化させるため、子どもは変化する対象に応じて運動を再調整する必要がある。

ベルンシュタインの運動学習理論から考えれば、重要なのは特定の筋肉を反復して動かすことではなく「単純な口腔の反復運動に構音改善に影響するエビデンスが乏しい」https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6743085/?utm_source=chatgpt.comという報告、目的と対象物の性質に合わせて運動を組織化する経験である。

私は、手づかみ食べには、手と口を協調させながら対象物に適応するという発達的意義があると考えている。

ただし、この経験が後の構音能力を直接向上させるという因果関係は明らかではない。手づかみ食べを構音訓練として捉えるのではなく、目的的な行為を通じて感覚運動の適応性を育む経験として評価したい。


参考文献

Green, J. R., & Wilson, E. M. (2006). Spontaneous facial motility in infancy: A 3D kinematic analysis. Developmental Psychobiology, 48(1), 16–28.

https://doi.org/10.1002/dev.20112