Iverson(2022)の発達カスケード理論から考える
身体運動が発達すると、ことばも発達するのだろうか。
Iverson(2022)は、運動発達と言語獲得の関係を「発達カスケード(Developmental Cascades)」という視点から整理した。これは、一つの領域の発達的変化が、環境や他者との関わりを変え、別の領域の発達にも連鎖的な影響を及ぼすという考え方である。
本論文では、座位、歩行、対象操作という3つの運動発達に注目している。
まず、座位が安定すると両手を使った対象探索が容易になり、子どもと養育者が同じ物に注意を向ける機会が増える。また、座位の獲得は音節を伴う喃語の出現とも関連する。
歩行が始まると、子どもは興味のある物へ近づき、それを持って他者のもとへ移動できるようになる。その結果、身振りや発声によるコミュニケーションが変化し、養育者からの応答も変わる。
さらに、対象を握る、振る、入れる、積むといった操作を通して、子どもは物の性質や行為の結果を経験する。こうした行為は、物や行為についてことばを学ぶ機会にもつながる。
座位の獲得から言語学習への広がり
論文中には、Figure 1で座位の獲得を起点として、7つの要素の関係が描かれている。(図1参照)

以下、7つの要素
1,Sitting(座位):姿勢が安定し、手を使いやすくなる。
2,Vocalization(発声):発声の仕方や音節を含む発声が変化する
3,Object manipulation(対象操作):物を握る、見る、持ち替えるなどの探索が広がる。
4,Space(空間):親子が一緒に遊ぶ空間の配置が変化する。
5,Joint looking(共同注視):親子が同じ対象を見る機会が増える。
6,Caregiver input(養育者からの働きかけ):子どもの行為や注意に応じた言語入力が変化する。
7,Language(言語):対象とことばを対応づける学習機会が広がる。
図中の矢印は、一方向の発達だけでなく、各要素が相互に影響し合うことも示している。
例えば、座位が安定すると、子どもは手で物を操作しながら見ることが容易になる。同時に、親子が同じ対象へ注意を向けやすい空間が成立する。養育者も子どもの関心や行為に応じて働きかけるため、物とことばの対応を学ぶ機会が生まれる。
重要なのは、座れるようになること自体が言語を発達させるのではなく、座位によって可能になる行為や相互作用の変化が、言語学習の環境を変えるという点である。
なお、著者は、図の要素が記載された順番で発達することを意味しないと説明している。これらの変化は同時並行的に生じ、相互に影響し合う可能性がある。
言語療育への示唆
この論文を読んで重要だと感じるのは、運動発達を言語発達の直接的な原因として扱っていないことである。
また、紹介された研究の多くは相関研究であり、運動発達から言語発達への因果関係がすべて実証されたわけではない。
言語療育では、単に座位や歩行などの運動機能を改善することではなく、子どもが現在利用できる身体機能によって、どのような探索や対象操作、他者との共同活動が可能になるかに注目したい。
参考文献
Iverson, J. M. (2022). Developing language in a developing body, revisited: The cascading effects of motor development on the acquisition of language. WIREs Cognitive Science, 13(6), e1626.
https://doi.org/10.1002/wcs.1626
Figure 1:原著PDFの18ページ参照。
